全応手馬記録作「Hurricane II」について

おもちゃ箱を見ていたら、気になる作品が解答発表されていた。

記録展示室 No.144
松下拓矢氏 Hurricane II


これは、めちゃめちゃすごいことをやっている作。
取らず手筋の繰り返しで縦に並んだ香を捌いていく趣向は目新しいものではないが、今までは銀や角を単に往復させながら行っていたものを、馬を3箇所ぐるぐると翻弄させつつ実現している。ピンされた71角の利きを逐一通さないといけないというところがミソで、大量の持駒を前によく余詰を避けきっているものだ。金と銀の使い分けも巧い。

今まで、似たような取り組みとしては金子清志氏のこの作品があった。


シンプルで上品な趣向だ。収束の入り方等、今回の松下作もこれに影響されて作られたと思われる。
しかし、趣向が終わった後の片付けが長くて長編手数になってしまっているのが欠点だ。大駒をすべて消すあたりはさすが金子氏といった力量を窺わせるが、それでもやはりメインテーマを際立たせるためにはできるだけ短く切り詰めるほうがいいに違いない。

で、それをやってのけたのが今回のHurricane IIで、馬の連続移動回数の記録を更新しただけでなく、収束を最短で切ったことにより「全応手馬」の記録にもなっている。これが何よりも驚異的。
旧記録は「蟻銀」で有名な芹田氏の看寿賞作で19手だったので、それを一気に2倍以上に更新したことになる。






このように、スペック上は看寿賞級のインパクトがあると言える「Hurricane II」だが、私は本作には致命的な欠陥があると考えている。
それが収束のこの局面。

2107matsushita.png

駒余りを避けるために44馬と移動合するのが作意で、53と迄の詰み。
しかしながら、44馬を同飛と取っても、同桂、53とで詰む。つまり、最終手余詰のキズがあるということである。

普段なら、最終手余詰は許容範囲とするのが慣例であるが、この場合は話が違う。
44馬という移動合の応手は、53と迄の駒余りを避けるのが目的だったはずなのに、結局は同飛と取られるとその53とを防ぐことができていないのだ。つまり、この移動合は一種の無駄合のようなものである。今回は「最終手余詰はOK」という暗黙のルールのためにたまたま44馬の移動合が作意と主張できてしまっているに過ぎない。
もっと言えば、これは最終手余詰OKの慣例を悪用していると捉えることもできる。厳しい見方だとは思うが、少なくとも私としては、それくらいの大キズに感じられたのだ。

で、それが本作にとって致命的なのは、「全応手馬」という、この作品に価値をもたらしめる本質的な要素が、この収束の馬移動合を軸に成り立っているためである。単なる収束のキズとしては片付けられない、本作の最も重要な部分なのだ。
記録にこだわらずとも、一つの作品のストーリーとして考えても、これだけ徹底的に馬を翻弄してさあ収束はどうなるのか、と期待が膨らんできた段階で、最後にその馬の小粋な移動合によって一作を締める、というサプライズが、解答者や鑑賞者の胸にたとえ無意識レベルであっても響きをもたらすというものである。その移動合の好防が、実は取っても駒余りで詰んでしまいます、では、絶対にいけないはずだ。
おもちゃ箱の短評では小山氏しか指摘していないが、もうちょっとそのあたりを洞察する解答者がいてもよかったのではないかと思う。

というわけで、文句ばっかり言ってしまったが、作品としては最初に言ったとおり非常に素晴らしいと思っているので、この最終手余詰をなんとか消したいところ。
自分でやってみたが、結論としては39手の全応手馬の記録を保ったまま可能そうだ。盤面はけっこう汚くなってしまうが……。
論理的に考えていけばどういうアプローチで最終手余詰を消す必要があるのかが自然に絞られてくるので、作図能力を高めたい方はぜひトライしてみてほしい。

角銀繰り換え趣向を分析する

まずはこの作品を見ていただきたい。

詰パラ1983年8月
柳原裕司



中編名作選Iにも載っている有名な作品。
「角銀繰り換え」趣向の一号局だ。

本記事でははこの趣向の作例を網羅していくことにするが、それぞれの作品で着目すべき点は3つ。
①機構(縦型か横型か、角を開く場所はどうか)
②攻方龍の勢力の緩和法
③繰り換えの目的


この柳原作に関して言えば、
縦型。角を開く場所は48と15のみ。37玉から脱出されてはいけないので、このラインに角を利かしておかなければならない。
28飛を置いて玉の陰から間接的に利かせることにより、17玉の局面で26龍を防ぎながらも、開王手の邪魔はしないようにしている。
最終手を指すため、玉の腹に銀を配置したい。ということは、15に角を移動させなければならない。ということは、銀は35にかわしておかなければならない……(以下略)。繰り換えそのものが目的で、1サイクルの単発モジュールと見ることができる。

使用駒たった7枚で、今までにない趣向を実現したということろが評価されるべき作品。





この次に紹介したいのは、ついこの前発表した自作。
話の流れの都合上、発表順がごちゃごちゃになっているがご了承いただきたい。

詰パラ2020年1月
鈴川優希
「からくり時計」



30手目の局面。これが柳原作の2手目と同じ状態だ。
ここからの目的はやはり、銀を玉の左腹に据えることで、同様の繰り換え手順を辿る。
そして47手目46銀が柳原作の最終手。本作はここで終わりではなく、これを同桂と取らせ、角の利きを敵陣へ直通させることによって収束に入る。柳原作を見ていて、このような収束に結びつかないだろうかと考えたのが創作の出発点であった。

では鈴川作の前半はどうなっているか。47桂。これが邪魔駒である。
柳原作では、玉は龍の右側を往復するだけだったが、鈴川作では龍の左側も往復できる機構を作り出したことにより、邪魔駒消去というキーが追加できたというわけ。また、序では繰り換えの過程で33飛を35へと近づける逆算を入れており、これでもまた手数が伸びた。

では、「攻方龍の勢力の緩和法」はどうだろう。玉方38飛のような配置はしていない。これは当然で、収束が成り立たなくなるからだ。
それではどのように――つまり、例えば9手目36飛成の紛れをどう防いでいるか、というと、これは17玉がポケットになっていて、龍が近づいてしまうと26歩のせいで1筋に回れない、という簡単な仕組みだ。
逆側、すなわち25手目36龍の紛れなども、57玉がポケットになっていて逃れる。
この「ポケット」という発想により、例えば序で14角を25に繰り換えるだとか(17玉に13飛成を用意)、25手目から45銀を25に繰り換えるだとか(57玉に55龍を用意)、そういった新しい繰り換えの意味付けを生じさせている。
「角の開く場所」についても、14、25、18、45、63、58と、4方向でしかも長短の使い分けを取り入れることができたというのが主張点だ。





時代は遡る。角銀繰り換えの、2号局とされている作品を紹介する。

詰パラ1993年2月
明石六郎



明石六郎は「赤・白・黒」からきたペンネームらしい。
そんなことは置いといて、構造の分析に入ろう。

2手目の局面と38手目の局面を見比べてほしい。そう、44銀、これ1枚だけが煙のように消えている。
銀を消すには、35銀と引く足がかりが必要だ。そのためには、いつものパターン、腹銀の形にすればいい。柳原作と同様の手順で18手目に腹銀の形にし、44銀を消去した後はまるでカセットテープをリバースしたかのように一目散に元の状態に戻すのだ。

では、なぜ44銀が邪魔駒なのか。これは着眼点「攻方龍の勢力の緩和法」とも密接に関わりがある。
本作は25飛成に対しては17玉がポケット。いったんこうなってしまうと、もう打歩詰が打開できない。いつでも17には逃げられるのに、16に攻駒が利いていない状態で17玉とすると、18歩、16玉、25飛成で詰んでしまうわけで、つまり、攻めがきつくなってきてもう詰みそうというその瀬戸際の瞬間だけ、玉方は切り札として17玉のポケットを使うことができる。打歩詰の性質を利用した面白い構造で、例えば途中で34角や43角成と開王手してしまうと、16に利いてしまうので、これも17玉で逃れとなる。
だが、44銀がいなければ話は別だ。43角成、17玉に44馬と引いて詰み。これが邪魔駒消去の意味付けとなっている。馬作りの可否が銀の有無によって操作されるという仕組みが秀逸だ。

馬が作れた後は収束となるが、金合が出て軸となっていた飛車が消えるところはもちろん、ポケットの機構を作るために利用していた持駒の歩も、最後に頭に叩いてきれいに消化する。さらに、52とと58香の配置が巧く、角の移動場所を完全に限定している。
(柳原作は5手目59角も可。鈴川作は最後72、81角成や角生も可。それに対し明石作は43角成が限定である)
2号局にしてこの完成度は奇跡的。





詰パラ2001年10月
相馬康幸



同じく縦型の構図で、玉の陰から龍の睨みを利かせるパターンは柳原作と同じ。
しかし、今回は「腹銀の形」ではないところでキーが発動する。

ターゲットは44歩であり、これを回収するのが目標。37から逃げ出されないよう気をつけながらゴチャゴチャ動かしていると、15銀の形でたまたま44角と出られる。
ここからカセットをリバースして、最初の37銀の形に戻していく。これは収束で26龍、同龍、同角としたときに28に利かしておくためのもの。2手目の局面と34手目の局面を比較すれば分かりやすい。
後は回収した歩をポンと捨てて、それで詰上りとなる。

手順の流れとしては明石作によく似ているが、ちょうど表裏一体となっている構造。銀の位置に着目すると、

【明石作】
14銀手順A面腹銀<折り返しのキー:邪魔駒消去>→手順B面14銀 ⇒収束

【相馬作】
腹銀手順B面15銀<折り返しのキー:歩の奪取>→手順A面腹銀 ⇒収束

ということになっている。A面、B面のモジュール手順は、どちらの作品も共通で、A面は柳原作の作意そのものだ。

【柳原作】
15銀手順A面腹銀 ⇒収束





詰パラ1999年7月
山田修司
「回転銀」



平成11年度の看寿賞を受賞しているので、知っている方も多いと思う。初めての「横型」による角銀繰り換えだ。

手数は43手で、明石作や相馬作と同じくらいだが、趣向手順としてはA面のみ。つまり、縦型でいう腹銀の形(29銀)にして、相馬作と同じ収束の入り方をする。途中でキーとなる手が入ることはない。ただし序と、A面の前に1ステップ組み換えが入ることにより、手数を伸ばしている。

【山田作】
序(48龍設置)⇒ 27銀47銀手順A面29銀 ⇒収束

本作は発表年としては柳原作、明石作に続く3号局である。
内容的にはそれほど目新しいところはなさそうだが、先行の明石作を差し置いてこちらが看寿賞を受賞しているのは意外なところ。
いつかこの謎を若手詰キストと議論した記憶があるが、山田作には味良い序奏があり、さらに最後は都詰になることが評価されたのだろうという想像になった。
素材をどう料理するか、そしてどう味付けを施すかという点に、作家の個性が現れる。





詰パラ2013年4月
田島秀男



やはり最後に紹介するのはこれ。
好きな田島秀男の作品3つ、と言われたら必ず本作を選ぶだろう。(もう一つは四桂連合の香ハガシで、あと一つは悩ましい)

本作の構造は上の棋譜コメントと分岐棋譜であらかた説明している。田島秀男にしてはそんなに難しいものではないので、ぜひ読み解いてもらいたい。
角銀繰り換えの目的として、今までは邪魔駒消去だとか、質駒の回収だとかを見てきたが、本作は馬鋸を組み合わせているのが肝で、超長手数化に成功した。
それだけではない。
角銀繰り換え趣向として、「縦型と横型をスイッチする」機構が初めて実現されたのだ。

初めは縦型で、A面の手順で17銀の腹銀の形にすれば、16龍、36玉で横型に変形できる。
横型の状態からは、26銀・48角(or15角)の形にすれば、25龍、27玉で横型に変形できる。

このような縦・横のスイッチ機構がなぜ今まで作られなかったのかというと、ちゃんと理由がある。そこを解き明かすために、着眼点「攻方龍の勢力の緩和法」を考えてみよう。
田島作は玉方龍を陰から歯車の中心に利かせるという、柳原作・山田作・相馬作に共通する手法を用いている。しかし、この場合は問題が発生する。上記3作については玉の「陰から」の守備だったため、開王手の邪魔をすることはなかったのだが、縦・横スイッチ機構でこれをやろうとすると、必ずどちらか片方では龍が「直に」利いてきてしまい、角や銀で開王手した際に合駒されてまったく詰まないのだ。本作で言えば縦型のとき、66龍が26に直に利いてしまっているので、これがまずそうに思える。

この致命的な問題に対して、田島秀男は実にシンプルな答えを用意した。それが「全駒配置による合駒枯渇」だ。
柳原作では使用駒たったの7枚。これだけの図で考えていては、縦横スイッチング機構には永遠に到達できない。盤上に全ての駒を置いて初めて、成立の糸口が見えてくるのだ。
当然、それだけの駒を置くからにはなんらかの巨大なギミックが求められる。それが本作では馬鋸だったというわけだ。
数々の超長編の名作を物にしてきた田島秀男だからこそ、閃くことができたに違いない。

しかしながら、スイッチング機構を実現したからといって、それが実際に駆動するという保証はどこにもない。
本作では、馬鋸が動くのはどちらも「横型」の状態である。縦・横のスイッチングは攻方の意思で行われる以上、一旦「縦型」を経由してから「横型」に戻さなければいけない意味付けが必要なのだ。これがまた難しい。

その答えは、横型における17角/15角の組み換えだった。
91-37ラインの馬鋸を進めるには17角型、81-36ラインの馬鋸には15角型にしておかなければいけないので、この2つの状態を交互に組み換えるのが目的。
この程度の組み換えなら、従来の作品ならただ単にグルグルやっていればそのうちそうなる、くらいの感覚なのだが、本作の場合、24の地点にポケットが用意されている。
35玉に対して26角と出るときは要注意で、15に銀を置いておかないと、24玉で詰まなくなるのだ。だが、15に銀がいるということは、当然15角→17角の組み換えや17角→15角の組み換えがどうやってもできない。だから、24のポケットを気にしなくていい縦型を一旦経由する必要があるということ。
こんな離れ業を誰が実現できるだろうか。

馬鋸にしても、歩を回収するだけでなく、ちゃんと復路まで用意されている。
そして収束は、大量の歩を消費しながら50手以上を要して右上を淀みなく捌ききる。奪取した一歩が最後の最後で役に立つ瞬間がたまらない。
まさに、盤上に存在しうるありとあらゆる理(ことわり)を集結させたかのような、技巧の極致がここにある。





さて、全6作。角銀繰り換え趣向を取り入れた作品はおそらくこれで網羅できたはずだ。
(将棋ジャーナル1984年11月・堀田雅裕作などの軽作は他にもあるかもしれないが、ここに並べるような文脈の作品ではなさそうだ)

発表順は、柳原作→明石作→山田作→相馬作→田島作→鈴川作で、期間にして40年近い。
内容としても、系統的に進化が進み、この趣向を使ってでできることはだんだん出尽くしてきた感がある。正直、田島作のやっていることが異次元すぎた。

これだけの作品群を前にして、角銀繰り換えに今後の新しい展開はあるのだろうか。新進気鋭の作家諸氏に期待を寄せながら、本記事の筆を置くことにする。

モデルメイトとは何か?

全国大会が終わってから1か月が経ちました。
全国大会効果というのか分かりませんが、詰将棋に対する熱は少し戻ってきていて、今月すでに中編を3作ほど作っています。
1年ほど、完全に創作から離れていたので、これで復活ということになればいいなと思います。

さて、本題ですが、詰パラ8月号を読んでいて少し気になった箇所が。
短21、石川氏作の解説のところです。


石川氏はいつもはっとするようなアイディアを取り入れた作品を発表されていて、非常に注目しています。
本作も、簡素な初形から高木手筋風の(※1)桂合が出てきて、飛2枚を捨てる収束までオリジナリティの高い手順です。

この記事で問題にしたいのは、作品の内容ではなく、詰上りに対しての解説です。

☆メインの27角生移動合は打歩誘致の常套手段。38桂と据えてからの36飛捨てが決め手となり、さらに25龍と捨てての詰上り。攻め駒は小駒ばかりで枚数は多いものの、いわゆるモデルメイトである。

はて? この詰上りは、果たしてモデルメイトと言っていいのだろうか。これが今回のテーマです。

modelmate1.png図1

モデルメイトとは、おそらく2013年ごろから詰将棋界に登場した用語で、もとはチェスプロブレムの概念だったものを輸入した形です。
その定義ですが、誰かによって統一された定義はなく、人によって使い方に少し差があるように思います。
おそらく最も一般的な解釈は、「詰上図において、玉の周りのマスに攻方の利きが重複しない」というもの。

図1を見ると、確かにその条件は満たしているように思います。が……。
25の地点、これが問題なのです。玉方の馬が25を埋めているので、ここにはそもそも玉が逃げる余地がない。にもかかわらず、攻方の37桂がそれをダメ押しで阻止しているのです。

私の見解から先に言いますと、図1はモデルメイトではありません。

そう主張したい背景には、モデルメイトという言葉が使われるようになった意図をしっかり説明する必要があります。

modelmate2.png図2
modelmate3.png図3

まずは、図2図3を見比べて、どちらのほうがより美しい詰上りだと感じるでしょうか。
「どっちもたいして変わんないよ」という方のために、もう1つ例を用意しました。
次の図4図5は、どちらがより美しい詰上りでしょうか。

modelmate4.png図4
modelmate5t.png図5

どの図も、実際の詰将棋でしばしば見かけるような詰上りだと思います。
しかし、特に図5を見てみると、駒の利きがいろいろ重複している箇所があり、さすがに図4のほうが優れていると感じる方のほうが多いのではないでしょうか。
せっかくの両王手の詰上りなのだから、角の長い足で捕まっていることを強調するために、58地点には壁駒を置きたくないし他の攻駒を利かせたくない。そう考えるのが詰将棋作家だと思います。
また図2図3に関しても、よりシンプルな図2に軍配が挙がる気がします。

このような「詰上りの美しさ」を図る指標の1つが、「モデルメイト」なのです。
できるだけ少ない攻駒で、ギリギリのところで玉を捕まえているからこそ緊張感が生まれますし、特に超短編においては重要視されてもいい基準と言えそうです。

また、これはちょっと話が横道にそれますが、図3には最終手余詰が生じているという問題もあります。
持駒の金を打ったところだったと推測すると、図6のようになりますが、これは23龍、22合、32金、11玉、22金迄の最終手余詰ですね。

modelmate6.png図6

もちろん中長編の収束となってこんな最終手余詰を気にしていたらキリがないですが、もしこれが1手詰や3手詰だったとすると、なかなか痛いキズだと思われます。
このような事態が発生するのは、つまり詰上りで攻駒の威力が過剰だから。そもそもギリギリのところで捕まえている図2であれば、最終手余詰は生じようがないのです。

modelmate2.png図2再掲
modelmate4.png図4再掲

話を元に戻します。ここに再掲した図2図4のような詰上り、これがモデルメイトです。
重要なのは、「玉の周りで攻駒の利きが重複しない」ことというよりも、「ギリギリのところで駒効率よく玉を捕まえている」こと。
それが、詰上りの美しさにつながってきます。

このような点を踏まえますと、例えば次の図7のような詰上りは、モデルメイトと認定したくない気持ちがご理解いただけるかと思います。

modelmate7.png図7

確かに、攻駒の利きの重複こそありませんが、56の桂や48の歩は詰上りにおいて必要のない存在です。これらがあるのであれば、57銀ではなく58桂くらいで充分なのです(その図は文句なくモデルメイトです)。

玉方の壁駒による重複がある詰上りをモデルメイトと認めてしまうと、そもそもモデルメイトという概念を持ち出してきた意味自体が薄れてしまうということを強調しておきたいと思います。

念のため申し上げておきますが、この記事は石川氏の作品や解説の石黒氏を批判する目的で書いているものではありません。定義が曖昧な現状において、モデルメイトという概念をしっかりと整理して、理解の普及を促すことが目的です。



さて、関連する話題ですが、「透かし詰のモデルメイト」ということにもついでに触れておきたいと思います。
少し考えれば分かることですが、透かし詰において、厳密な意味でのモデルメイトは基本的にはあり得ません(※2)。

modelmate8.png図8

このように、合駒を防ぐため、どうしても玉に接するマスの1つに攻方の利きが重複してしまいます。

しかし私は、図8のような詰上りも、モデルメイトとして分類していいように思います。
というのも、図8はモデルメイトの根本的な概念である「ギリギリのところで駒効率よく玉を捕まえている」に当てはまるからです。
合駒を防ぐためのマス以外の部分に攻方の利きや壁駒の重複がなければ、それでいいじゃありませんか。
透かし詰であっても、詰上りの美しさを図る尺度としてモデルメイトの概念を使えたほうが便利に違いありません。



また話題は少し変わります。
今までは簡単のため、「すべての攻駒が詰上りに協力する」ことを前提として例を出してきましたが、次のような図はどうでしょうか。

modelmate9.png図9

図2に53歩を追加したものです。実際の詰将棋には、このようなパターンがかなりありますね。
これは果たしてモデルメイトと呼んでもいいのでしょうか。
私は、グレーなところだと思っています。

というのも、何度も言うようですが「ギリギリのところで駒効率よく玉を捕まえている」というモデルメイトの概念に図9が当てはまるかというと、ちょっと首を傾げたくなるからです。
詰上りに協力しない攻方53歩という駒が残ってしまっているとなると、美しさという点では価値が少しだけ下がりそうです。
少なくとも、れっきとしたモデルメイトであった図2とは、一応の区別をしておきたいと思っています。

図2モデルメイト図9準モデルメイトと呼んで区別するか。
図2純正モデルメイト図9を単なるモデルメイトと呼んで区別するか。

方法はいろいろあるかと思います。チェスプロブレムではピュアメイトという用語もあるそうです。(詳しくは知りませんが……)

ただ、この区別のための用語を今すぐに決めたり、その使い分けを他の人に強制したりするようなことをする必要はまったくないと思っています。
話す上では、どちらもモデルメイト、だけで充分です。

そもそもモデルメイトは、詰上りの美しさを言語化するためのただの指標であって、その定義について深く厳密に議論するようなものではないと思っています。
昔詰パラで提唱された、動駒率、消去率、回転率のようなものです(※3)。
あくまで指標。モデルメイトではないからといって、その作品の価値が大幅に下がるようなことはありませんし、モデルメイトにしたからといって作品の質がグッとよくなるといったこともないでしょう。

例えば創作の仕上げの段階で、配置の二者択一を迫られた時に、こっちならモデルメイトになって気分いいな、ということを基準にして決める。それくらいの扱い方でいいと思います。
(まあ私は、自分の作風としてけっこう詰上りを重視しているのですが……。そういう人は少数派でしょう)

そういえば以前、モデルメイトに関連して、こんなことを言われた覚えがあります。

modelmate10.png図10

利きが重複しないのがその定義なら、この図だってモデルメイトじゃないか。どこがギリギリで気持ちのいい詰上りなんだ、と。
その通りです。モデルメイトに間違いありません。

しかし、この図においてモデルメイトという言葉を出してくることは、それ自体が少し見当外れなのではないかと思っています。
喩えるなら、裸玉の作品を見て、「これは不動駒ゼロの作品だ」、「これは初形“点”の曲詰だ」と言ったり、
煙詰の作品を見て「初形が盤面全体に広がっていて美しくない」、「長編なのに繰り返し趣向が入っていなくてつまらない」などと言うことと似たようなものだと思っています。

モデルメイトという概念が意味を持ってくるのは、詰上りの形のよさがアピールポイントの一つとなっている作品に対してのみです。
例えば、盤面右上にまとまった初形から、大海へ玉を追い出して、角の長い足を使って脱出寸前のところを捕まえる作品。
このような場合は、詰上りのギリギリ感こそが作品の狙いにダイレクトに関わってくるので、モデルメイトという概念が非常に大切になってくるのです。

せっかくなので図10に関して、もう一点だけ。
そもそもモデルメイトは、美しい詰上りであるのための十分条件ではありません。
モデルメイトならば美しい詰上りであるという解釈は誤りなのです。それを図10は示してくれています。
ならばモデルメイトは美しい詰上りのための必要条件かというと、それもまた違うと思います。
詰上りが美しいと感じるのは、その詰上りがモデルメイトになっているからだ、とは限らないはずです。利きの重複以外にも、いろいろな要素によって詰上りの美しさというものは変わってきます。

何度も言いますが、あくまで指標。モデルメイトであれば、その詰上りを美しいと思える傾向がある。それだけのことです。
(今までの詳しい議論は何だったんだ、となるような結論ですが)



以上、モデルメイトについていろいろ語ってきました。
私が示した例で、どれをモデルメイトとするのか、しないのか、という点に関しては、やはり人によって違いがあると思います。
もちろん、その考えを否定するつももりはありませんし、冒頭で問題提起した石黒氏の解説も、これは完全なる誤りだ、と批判するつもりもありません。
ただおそらく、モデルメイトという言葉が使われ始めたのは、このブログがかなり起源に近いという事実があります。(※4)
当事者の一人として、私自信はこのような解釈をしているのだ、ということをここにまとめておきたいと思い、こうして記事を書いています。

皆さんも、ぜひモデルメイトという概念を頭の片隅に入れて、創作や鑑賞に役立てていただければ幸いです。



※1
高木手筋もまた、解釈の分かれる用語ですが、ここでは最も広義に捉えて、「ある大駒XがラインA→ラインBの順で王手する。ラインBの王手に対してある合駒をしたいが、それは何らかの理由によって不可能もしくは早詰になる。そこで(本来は中合をする必要がない)ラインAの王手の段階で中合をしてXを近付けておくことにより、擬似的にラインBで合駒をした時と同じ効果を得る」という解釈にしておきます。高木手筋については、また別の機会に詳しく書くかも知れません。

※2
合駒制限や、大量の花駒を配置するなどして、「合駒が不可能」という状況を作り上げれば、透かし詰でも厳密なモデルメイトが作れます。ただしかなり特殊な状況なので、補足に回しました。

※3
動駒率、消去率、回転率もまた、詰将棋のよしあしを語る上で参考にするとよい(かもしれない)概念です。詳しくは、詰パラHPに載っています。→詰将棋オモロ講座

※4
モデルメイトという言葉を詰将棋で初めて使ったのは若島正氏(のはず)。
このブログでは2013年のこの記事のコメント欄が初出です。→詰将棋ウィークリー#39 解答
以降、三輪さんや私がこの言葉を気に入ってブログ上で使っていき、現在では稀に詰パラ上でも使われる用語として少しずつ普及していっているように思います。

「フロント-リア型」バッテリーの形成は珍しいのか

全国大会へ行った時に、ふと思ったことを考察してみたいと思います。

私と看寿賞短編部門を同時受賞した、有吉作。


詰パラ7月号の選考過程を読んでみると、

バッテリー組み直しが主題で、これを実現している作は他にも候補作としていくつか挙がっていますが、本作が他と一線を画しているのはバッテリーが『手前の駒(15角)』→『後ろの駒(14龍)』の順で設置されているという点です。これがかなり珍しい。

とあり、これ以降も同様の表現が2回ほど登場します。
最初読んだ時は別に気にしなかったのですが、全国大会での受賞作解説の際もこの点が非常に強調されていたので、そこまで言われてしまうと疑義を唱えたくなるというもの。
というのも、珍しいというその根拠が「今年の看寿賞候補作の中では本作しかない」という、不確かなものである(ように読めてしまう)からです。
もちろん、実際は詳細な検討が行われているのだとは思いますが、どのくらい珍しいものであるのかは私としても気になるところです。

(念のため注意書きしておきますが、本記事は有吉氏の作品を批判したり、看寿賞選考員にいちゃもんをつけたりするためのものではありません。
作例がどのくらいあるのか、気になったので調べてみた、という性質のものです。)

まず、問題となる手順を一言で表現するのがちょっと難しいです。
バッテリー組み換えの際、「手前の駒」→「後ろの駒」の順で設置する、というものですが、ここではこれを「フロント-リア型」と呼びたいと思います。
バッテリーの手前の駒を「フロントピース」、後ろの駒を「リアピース」と呼ぶ方法は、詰パラでも以前使われたことがあるようです。チェスプロブレム由来なのかどうかは、私には分かりません。

それでは、まず私が真っ先に思い当たったフロント-リア型の作を一つ。


自作です。
初形では1つもバッテリーがない状況から、2つのバッテリーを作り、それをどちらも開くことで3つ目のバッテリーを形成(ここがフロント-リア型)、そして最後は3つ目のバッテリーも消して詰上りという内容です。
途中で98銀の邪魔駒消去が入るあたりも、うまくできていると思っています。
評点は2.86だったのですが、半期賞を逃すという惜しい一作でした。

このように自作に作例があるという点からも、フロント-リア型が「かなり珍しい」という説には素直に賛同できなかったという背景があります。
ちなみに、自作では他にフロント-リア型はありませんでした。

最近の例で言いますと、こちら。


先月のちえのわにご登場いただいた鳩森さんの作品。今月発刊のkisy一族作品集「青い鳥」にも収録されています。作者による解説はこちら→2019年1月号 中学校2 拾遺
内容としては、と金を軽く捌きながらバッテリーを組み替えるのが特徴です。収束は、有吉作をちょうど90度回転させたような印象があります。
もちろん有吉作のほうが発表は先ですので、念のため。

青い鳥には、他にフロント-リア型の作品はありませんでした。

さて、フロント-リア型の一般的な考察ですが、リアピースを後から置くということは、当然フロントピースの陰に隠れるわけで、それを実現するには

①リアピースの別方向への利きによって王手する。
②別のバッテリーのフロントピースが移動してリアピースとなる。

の二通りしかありません。
このうち①は、玉が別方向から移動して来なければいけないため、手数が少し長くなりそうです。
超短編で表現するなら、②がベターでしょうか。
この場合、わざわざ陰になるように開王手しなければいけない意味付けが必須で、それ次第で作品のおもしろさが決まってくるように思います。
そういう意味では、有吉作は龍の移動場所が多い中でわざわざ14を選ぶという意外性があり、看寿賞につながったのではないかと思います。

では、ここでフロント-リア型の最短手数を。


やや単調ですが、狙いのダイレクトな表現としては巧くできていると思います。角がスイッチバックするところも見逃せません。
本作は、借り猫さんのブログに載っていました。→限定移動集 その2

また、短編名作選を漁っていたら、こんな作品も見つけました。


……ム。自作と構成が似ている。紹介しなければよかったか 笑。

ちなみに短編名作選をパラパラとめくって探しても、フロント-リア型はこれ一作だけでした。
しかし、そもそもバッテリーの組み換えをテーマにしている作品自体が少なかった印象。
そう考えると、次のような仮説が立ちます。

・逆パターン、すなわち「リア-フロント型」は、どちらのピースの設置も「普通の王手」で可能。
・一方、「フロント-リア型」は、先述した①または②のような工夫をしないと実現できない。
・すなわち、「フロント-リア型」は、短編では必然的に②の採用が多くなるため、「バッテリーの組み換え」そのものを狙いとした作品でしかめったに現れない。
・これに対して「リア-フロント型」は、「バッテリーの組み換え」ではなく、単なる「バッテリーの作成」を表現した詰将棋では専らこれで、この作例は非常に多い。
・ゆえに、相対的に「フロント-リア型」が珍しいと錯覚しているのであって、「バッテリーの組み換え」をテーマとした作例だけで比較したら、「リア-フロント型」も「フロント-リア型」も、そこまで数は変わらないのではないか。

図で表すと、こんな感じです。


FRimage.jpg


「バッテリーの組み換え」カテゴリの中の、「リア-フロント型」と「フロント-リア型」の比率はどうか分かりませんが、大きく間違ってることはないように思います。
というのも、「フロント-リア型」の創作が難しいと思われている理由は、
「リアピースをわざわざ陰になる位置に移動させるのが難しい」
ということなのですが、「バッテリーの組み換え」カテゴリ内の話ならば、「リア-フロント型」も
「フロントピースをわざわざリアピースの利きを塞ぐ位置に移動させるのは難しい」
はずで、その困難の度合に大きな差はないはずです。

「バッテリーの作成」という広いカテゴリで比べてしまうから「フロント-リア型」がやたら珍しく見えてしまうのではないでしょうか。

なお、ここまで紹介した作品はすべてフロント-リア型②ですが、図の右下に小さく書いたフロント-リア型①にはどのような作品があるかというと、こんな感じです。


たった今私が急ごしらえした例題でなんのひねりもなく申し訳ありませんが、「フロント-リア型」には間違いありません。リアピース(31龍)を後から設置しています。
このような例なら、探そうとすればたくさん出てくるのではないでしょうか。

他にも、中編手数ならフロント-リア型②にこのような例が見つかりました。


「ミルキーウェイ」とタイトルが付いています。
これは、バッテリー組み換えが狙いというより、香の最遠打や歩香重ね打ちの虚々実々な攻防がおもしろい作品です。バッテリーの組み換えのみを切り取って紹介するなら、12手目の局面からの9手詰です。このように、香の陰に馬が回るような構図も、よく見かける気がします。

というわけで、結論になりますが、やはりフロント-リア型はあえて強調するほど珍しい構想ではないと思われます。
有吉作も、フロント-リア型を狙いとして作ったものではないでしょうし、評価されるべきポイントは他にあるといったところでしょうか。
ただ、バッテリーの組み換えというテーマを分析する上で、ある作品がどちらに分類されるのかを考えることは決して無駄ではないでしょうし、分類することによって見えてくるものもあるはずです。実際、私がこうして調べている間に、いろいろ勉強になりました。

作家の皆さん、ぜひ「バッテリーの組み換え」で一作作ってみませんか。

7/21追記
ここでいうバッテリーの作成およびバッテリーの組み換えは、フロントピース、リアピースともに作意手順中に設置するもののことです。どちらか片方だけなら相当条件が甘くなってしまうので……。

詰将棋は「攻方は最短で」が正しい!?

詰パラ3月号のちえのわ雑文集は、谷川幸永さんにご登場いただきました。
かなりの内容が2ページに凝縮されているので、一読しただけでは少し伝わりづらい部分があったかと思います。
というわけで、このブログで少々補足というか、私なりに分かりやすく翻訳し直して書いてみたいと思います。

まず、取り上げられている話題は詰将棋のルールについて、です。
その中でも、「攻方最善」「攻方自由」のことに焦点が絞られています。
念のためちゃんと説明しておきますと、

「攻方最善」は、
攻方はできるだけ詰手数が短くなるように、そして同手数なら駒が余るように,、最善の手順で王手をかけなければいけない。
という立場で、

「攻方自由」は、
攻方はとりあえず玉を詰ますように王手をかけていく。玉方がどう応じても最終的な詰みが約束される追い方なら、いかなる順で王手をかけていっても構わない。
という立場です。

特に、「攻方最善」は、初心者向けの入門書などでは「攻方は最短手順で詰まさなければいけない」と書かれていることが多いです。

さて、このブログをお読みの皆さんは、「攻方最善」「攻方自由」どちらが正しい詰将棋のルールであるとお考えでしょうか。
おそらく、多くの方は「攻方自由」が正しい、と答えると思います。

しかし、実はその認識は正しくないどころか、詰パラは一貫して「攻方最善」を正式ルールとして採用している、というのが今回のちえのわ雑文集の趣旨なのです。





まず、「攻方自由」が正しいという認識が詰キストの間で広まっている理由について。

初心者向けに簡単に詰将棋のルールを説明する時に、「攻方最善」の原則が採用されることが多いのは、記述が簡単になり、啓蒙作品を扱うくらいならそれで支障をきたさないためだと考えられます。
攻方はできるだけ詰ませるように追う、玉方はできるだけ詰みから逃れるように受ける。
指将棋の感覚ともマッチした、実に簡単なルールです。

しかし、詰パラに載るような複雑な作品になってくると、この簡単な記述だけでは足りない場合が出てきます。
例えば、余詰作品や、迂回手順のキズがある作品。
もし、「攻方最善」のルールをそのまま採用してしまったら、余詰手順や迂回手順の解答は誤解扱いにせざるを得ません。
極端な話、早詰作品に至っては、作意手順を答えると不正解になってしまいます。
だから、正式なルールは「攻方自由」である。これが、多くの方の認識だと思います。実際、これでほとんど問題はありません。

(ここから数行は本旨と関わらない内容なので、読み飛ばしたほうが分かりやすいかも)
変化手順中の詰ませ方だけは「攻方最善」を採用する必要がある、という意見もあるかと思います。
というのも、これは変別解をバツにするためです。
より正確には、
玉方は、攻方が「攻方最善」の原則に従って王手をかけてくるのを見越した上で最善で逃げなければならない、
とでも表現しましょうか。どちらかというと玉方の応手に関する規定ですね。
でも、そう考えると我々に馴染み深い「攻方自由」の原則は必ずしも万能ではない気がしてくるのではないでしょうか?





さて、それでは、全詰連(全日本詰将棋連盟)の公式見解は、「攻方最善」「攻方自由」か、というところに迫っていきましょう。

全詰連が現在採用している公式ルールなるものは、「綿貫規約」と呼ばれています。
この規約は、1963年に制定されたもので、利波さんの温故知新というサイトで全文を読むことができます。→綿貫規約

非常に長い規約ですが、核となる第二条だけ引用します。


第二条(解法) 解法の基本は次の如く定める。

① 詰方の指手(着手)は必ず王手をかける形をとること。
② 玉方の指手(応手)は必ず王手をはずす形をとること。
③ 応手の尽きた状態を以て詰みとすること。
④ 詰方は提示の持駒の外に、中途入手の駒を使うこと。
⑤ 玉方は残り駒を合いとして使用できること。
⑥ 着手は最短手順を選ぶこと。(着手最短律)
⑦ 応手は最長手順を選ぶこと。(応手最長律)
⑧ 指手はすべて右の諸条件に対し必要かつ十分である手順をとること。(必要十分律)


注意すべきなのは、制定されたのが半世紀以上昔ということで、現行の慣習には則っていない部分が多いということです。
この条文では駒余りに関する取り決めが抜け落ちていますが、話を簡単にするために⑥⑦にそれぞれ
「攻方着手は駒余りになるものを優先する」
「玉方応手は攻方に駒を使い切らせるものを優先する」
という意味も内包させて考えるものとします。
すると、⑥はまさに「攻方最善」の原則そのものですね。

上で述べたような、不完全作があった場合に「攻方最善」を採用してはまずいのではないか、という問題については、出題は基本的に完全作に限る、ということで回避しています。
つまり、第二条の原則は完全作に対してのみの規定であるという解釈でいいでしょう。
また、第六条には、「本規約の各項以外に、出題側がその主催範囲に限定する内規を設けて、出題を解答に関する一部の変更をすることができる。」ともありますから、キズのある作や余詰作については担当者権限で作意手順以外の解答もマルにできるということです。

とにもかくにも、綿貫規約は「攻方最善」なのです。





さて、この綿貫規約ですが、やはり時代にそぐわない面が大きく、これを厳密に正式ルールということは難しくなってきました。
そのような流れの中で、1999年11月に新たな規約案が詰パラ上で公開されます。
通称、「川崎規約案」
哲人といわれた川崎弘氏が中心となり、全詰連に設立された規約委員会によって議論を重ねて制定されたものです。

詰パラ1999年11月号がお手元にある方は、それを参照なさってください。
全文をスキャンした画像データを作ったのですが、それをこのブログで公開してしまうのは著作権的にどうかと思うので、今は自粛させていただきます。
例によって、核心部だけ引用します。


第六条 〔着手における優位順〕
次の各項でこの順に上位にある着手を優位とします。
一、手数 より短く詰めうる手順
二、駒余り 詰上りに持駒が余る(これを《駒余り》といいます)手順
三、難易度 より詰め易いと思われる手順

第七条 〔応手における優位順〕
次の各項目でこの順に上位にある応手を優位とします。
一、手数 詰方が最短で詰めた場合に、詰上りまでにより長くかかる手順
二、駒余り 同手数なら詰上がりが駒余りとならない手順
三、詰め手段 前二項が同じなら詰める手順が1つに限定される手順
四、その他 難易度(より詰め難いと思われる順)、詰上がりの駒数(少ない方)、作図意図との合致などを併せ考慮
なお、第六、七条の優位条件は、本手順に限らず、変化、紛れなど全ての着手系、応手系に適用します。


この後に、作意手順の決め方やキズの扱い方など、事細かな規定が並んでいきます。
綿貫規約よりも慣習に即しつつ、実用に向いた条文でなかなか分かりやすいです。加えて、


第二十二条 〔解答者の義務〕
出題図が第三章の諸規定により作図されていることを前提に、解答者は以下の各項に従い、解答します。
一、詰みの発見
全ての応手が詰みに至る順の確認
二、代表手順の選定
前項の手順群のうちから、第二章の基準により代表手順を選定
三、解答の単記
解答としてその順を単記
なお、評価など出題者が特に要求した事項を除き、変化や感想などの付記は自由とします。

第二十三条 〔最善順の確認努力〕
解答者は前条一項の《詰みの発見》の過程で、第二章による、より最善に近い詰手順がないかの確認に努めるものとします。


という、解答の規定と、


第二十八条 〔審査条件の緩和〕
第二十六条の基準によれば×になる解答であっても、以下のいずれかの場合は×条件を緩和し、○とします。
一、×解に至ったのが、作品側の欠陥またはそれに準じたものに起因すると認められるとき
二、第二十三条の要求が解答者にとり過重な負担と認められるとき

第二十九条 〔緩和の適用〕
前条により、余詰順、早詰順、着手系キズ順、誤作意作での正しい本手順、変同順などは、それらの順も作意に準じたものとみなして審査します。作意不詰作は、無解や誤解を含め、全ての解答を○とします。


という解答審査の規定も、実に分かりやすいものになっています。

とにかく、第六条にある通り、この川崎規約案も「攻方最善」を採用しているのです。
第二十八条、第二十九条によって、「攻方最善」の問題点をクリアしているのが見事ですね。





この川崎規約案ですが、「案」とついているように、全詰連がこれを正式規約としているわけではありません。あくまで建前上は綿貫規約が正式なものです。
ただ実際には、2000年以降、どうやらこの川崎規約案に従っていると考えられます。

その例として、ちえのわ雑文集に取り上げられている詰パラ2014年11月号の記事「詰将棋ルール審査会(第1回)」があります。
これは詰パラ上で出題された3手詰に対し、変同手順中で分岐して5手で詰ませた別解が多発し、それを○とするか×とするか、規約委員会が議論したものです。
いわゆる変同余詰というやつです。もちろん、3手詰の変同なので、通常はキズとは扱われないのですが……。
結論として、この5手の解答は正解扱いとなりました。
この裁定を、ちえのわ雑文集で谷川さんは「川崎規約案に従ったもの」として解釈しているのです。





というわけで、全詰連が採用しているのが綿貫規約であれ川崎規約案であれ、
現行の詰将棋の正式ルールは「攻方最善」であるということが分かりました。

「攻方自由」が正しいと信じて疑わなかった方にとっては、驚くべき事実だったのではないでしょうか。

もちろん、単に「攻方最善」と言っただけでは語弊が生じます。
川崎規約案のような、緻密な条文を出して初めて「攻方最善」がその意味を発揮するのです。
その点では、「攻方最善」「攻方自由」、どちらを採用したほうがより簡単なルール制定に向いているのかは微妙なところではあります。
「攻方自由」で議論したほうが直感的に分かりやすい、という状況もあるはずですからね。

重要なのは、とにかく先入観をなくすこと。
どちらか一方が正しいんだ、という思い込みが一番いけないのです。

このように、詰将棋のルールの根本となるところでさえ見解が分かれている現状なので、無駄合などの複雑な場合に至っては、ますます混乱を招きます。
規約談義をする際には、こういった「躓きの石」がそこらじゅうに潜んでいるものだと覚悟して臨むべきでしょう。





と、いうのが3月号のちえのわ雑文集の内容でした。
念のため断っておきますが、私はここで「攻方最善」「攻方自由」どちらが優れているかという話をしているわけではありませんし、無駄合などの規約談義をしたいわけでもありません。
それ以外のことで感想・ご意見などありましたら、ぜひお気軽にコメントお願いします。

私としては、全詰連がいつでも参照できる形で川崎規約案をネット上などに掲載しておくのがいいかと思うのですが、どうでしょうか。

それをわたしはこう作る

裏短コンの出題だけしてブログをなんにも更新しないのは甘えだと思ったので、お茶を濁すようなものを。

詰パラ2009年9月号デパート
堀切良太作



合駒職人の作品。序の二段角合の意味づけがちょっとおもしろい。
まず、2手目すぐに24玉は35金、33玉、34金迄。15からの脱出を図るべく、捨合がまず必要です。しかしそれでは同金、13玉、25金で、16に何を合駒しても14香迄。そこで、あらかじめ16に中合して香を近づけておき、同様の手順で25金の時に16飛と取ってしまい、その飛を14にまで利かせて逃れるのが玉方の狙いです。
そういうわけで16合~15合が確定となりますが、前に利く駒だと15金~14金と押しこんでいって、13にもらった駒を打って清算すれば詰んでしまいます。またいずれかが桂合だと15同香、24玉に16桂迄ですね。
単純といえば単純ですが、打歩詰も絡まない中で連続角合を出してしまうのはさすがというところ。
ちなみにこの16合ですが、最近たまに見かける「時間差中合」の要素を含んでいるとは思いませんか……? 本旨じゃないので詳しくは書きませんが、わかる人にはこう言っておけばなんとなく伝わるかと。
連続角合の後は龍の移動中合まで出て、なんとかその飛も捨ててまとめきっています。

で、この作品を見て思ったのは、前半と後半がやや分裂気味だなあということ。
連続角合のところはそれで意味づけが完結していますし、そこからどうやってまとめるかを考えた結果、龍の移動中合からの手順を見つけたんだろうなと思います。

では、序の連続角合だけを単体で切り出したらどうなるか……。
やってみました。



1段下げることで、歩合の変化を短く切り詰めることに成功。駒数も減りました。
もらった2枚の角を、斜め一線に捨てるという構成で、ストーリー的にも完成している。
最終手の成生非限定が気になりますが、どうしようもありませんでした。

さてこれで終わるとわざわざブログで書くほどのことではないんですが、詰パラのバックナンバーをめくっていたら、見つけてしまいました。同じことをやっている方を。

詰パラ2000年2月号高等学校
縫田光司作



堀切さんの作品よりずいぶん前ですね。
連続角合の機構はまったく同じ。その処理の方法ですが、原型邪魔駒消去という技を使っています。
51となんていう駒を置くくらいなら鈴川図のほうがいい気がしなくもないですが(おっと)。

類作がどうこう、というよりも、いろいろな作家のいろいろな作り方を見られるのはおもしろいことだと思います。

禁じられた遊び手筋まとめ その5

その4を書いた後に、メールで2作指摘していただいたので、紹介します。


【21】
冨樫昌利
詰パラ1993年7月



【19】原田作に、「系譜を見ても前例らしいものがなく斬新」と書いたら、ありました 笑。銀の代わりに、金を用いています。
すべては4筋に飛を回るための攻防。馬が邪魔駒というのもすごいですが、続く38金が、36玉の余地を与えてしまうためひじょうに指しにくい。47金打で簡単に詰むとわかればなんということはないのですが、作り方として見習いたいところです。
中合せずに34玉では24金、44玉、33角成、同飛、49龍迄なので、28歩合(桂合禁止)となりますが、以下収束もまあ決まっています。
C級順位戦で昇級。


【22】
YYZ
詰パラ2002年9月



欠かしてはならない作品を忘れていました。YYZ氏の小学校半期賞作。
初手37飛では47桂合で逃れてしまうので、もう一段深く飛を引いておく構想です。
焦点を8段目に、という作りは今までたくさん見てきましたが、「限定打ではなく限定移動にすれば中合処理が必要ない」原理に基づいて、たった7手でまとめてしまったのが、この作者の感性を反映していると言っていいでしょう。


今後とも追加で作例を見つけた方はぜひご指摘ください。

禁じられた遊び手筋まとめ その4

お待たせしました。その3の続きです。
皆さんのコメントによる指摘と、独自調査によるリストなので、時系列は前後してしまいます……ご了承ください。


【17】
エマージェンシー
F-86F
近代将棋1981年6月
添川公司氏による修正図



般若一族の作品。作者名F-86Fは黒田紀章氏のことです。
禁じられた遊び手筋の利用方法としては、例のごとく焦点を8段目にもってくるもの。75飛~54飛は45飛に44桂合で逃れるため、79飛~58飛とすれば焦点に桂合ができなくなります。

この作品の発表年が不運なことに、同構想の【3】桑原作の翌年となってしまいました。違いを指摘すれば、こちらは57桂合といったん中合することで焦点を47に変え、なにがなんでも歩を渡さないように受けていることです。これをすると、56桂合や55桂合、さらに2手目の桂合など、さまざまな変化に折り合いを付けなければならず、収束にしわ寄せがきたり、必要以上に難解になったりしてしまいます。いっぽう【3】は、早い段階で桂合をしたら55桂ですぐに詰んでしまうところが、繰り返しになりますがやはり巧いと思います。

詳しい解説や原図(余詰)は『般若一族 全作品』をご覧ください。


【18】
半小黒
『般若一族 全作品』2014年7月



これまた般若一族の黒田氏。
発表を2014年7月と書きましたが、実際は【17】と同じ1981年に、詰パラ5月号に発表された「衛星の棲」という作品があり、ここに引用したのはその原図。
「衛星の棲」は禁じられた遊び手筋が紛れに組み込まれたもので、作意にはいっさい現れないため、『般若一族 全作品』に掲載された原理図のほうで紹介するほうが、ここでの趣旨にそぐうと思ったわけです。

7手目37飛は22玉として、14銀に27桂合で同香、12玉、23銀成、11玉に17飛が回れずアウト。かといって14銀のところ34銀と開王手するのは24香合、同香、13玉、23香成、14玉、18飛、15合★で逃れ。
そこで38飛として28桂合を禁手にしてやりましょう。
【17】エマージェンシーと同じように、飛を近づけてなにがなんでも焦点に桂合をしてやろうという受けが、34桂合~24桂合となります。収束までスマートに捌いて、完成品かと思います。
ところで、8手目37桂合ではなぜだめか。それは同飛、22玉に34銀と開いて、上記変化★のところで桂を持っているので26桂迄です。
つまり、飛を近づけておくのが37~35は早詰で34ならいい理由は、34銀を防ぐためなんですね。
【17】ではやたら複雑になってしまっていた中合位置が、こちらではなんとも巧く限定されているではないですか。


【19】
原田清美
詰パラ2008年12月



時代はいきなり平成で、中合芸人の原田さん。
これは焦点というより、銀を壁にして3筋に飛を回れなくするための中合を桂合禁止にする構想。銀ソッポというのが巧いし、ならばと玉方は14桂合で3筋に回れなくする駆け引き。最後には24歩を吊り上げて結局回れます。
系譜を見ても前例らしいものがなく、斬新です。
短コンで上位入賞。


【20】
柳田明
詰パラ2011年6月



全詰連会長の順位戦作。
4手目、すぐに46飛だと45馬、26玉、59角で48桂合ができません。そこであらかじめ57桂合として近づけておく手筋。それでも結局48角と捨て、以下最短のまとめ。
(広義)高木手筋との組み合わせは【15】に続いて2局目ですが、作者のセンスが出るものです。


以上で、禁じられた遊び手筋の前例はほぼ出尽くしたのではないでしょうか。
この記事に触発されて新しい作品が生まれたら嬉しいのですが。

禁じられた遊び手筋まとめ その3

その2の続きです。


【11】
近藤諭
詰パラ2000年5月



この記事のもととなった論考が書かれるきっかけとなった作品。
銀2枚を軽く捌く序を越えて7手目、すぐに33馬では14玉、19龍、16桂合、同龍、同角……で手がありません。
そこで36桂と打って合駒位置を18にすることで、桂合を防いでいるわけですね。以下は簡単な詰み。
合駒の紐駒をあらかじめ移動しておく理屈は、【1】や【7】など最もオーソドックスなタイプなので、それ以外の部分でもうひとつ主張できる点がほしいところ。


【12】
森長宏明
詰物屋2000年9月



またもや森長氏。ご自身のホームページであっさりと発表された作品です。
馬をどかすための45角に対して、同馬では19飛に18桂合ができません。そこで玉方は線上に34桂合といったん近づけてから取ることで、合駒位置を16にしようという狙い。以下は龍も消してひじょうに手慣れた収束。
合駒位置を変えるというおなじみのスタイルですが、これは玉方応用に分類されるでしょう。


【13】
三角淳
詰パラ2000年11月



東大将棋部時代の三角氏の作品。
平凡に55金、75玉、48馬としてみると、57歩合なら切って66歩で簡単なのに、57桂合で駒が足りません。そこで初手28馬と様子を見てみます。37の合駒に55金~79馬と進めれば、飛筋が止まっているので相当に詰みそうです。
37に高い駒を合駒すると同馬以下詰むので、37は角合にして48に利きを作るよりありません。39馬に48桂合……ができないんですね!
そこで玉方は必死の抵抗、48角成のタダ捨てから57桂合という順です。この角桂を使ってなんとも気持ちいい収束が待っていました。
いったん成り捨てて線駒を通すという狙いは【8】と同じですが、桂だけでなく角の移動中合にしてさらにダイナミックになっています。作者自身も【8】を知った上での創作だとコメントしています。


【14】
大崎壮太郎
詰パラ2000年12月



我らがデパート担当の、入選2回目の作品。
17桂合を避けるために72龍と突っ込んで馬筋を変えます。
飾りっ気も何もあったものじゃありませんが、スペシャルミニマムな表現としては満点でしょう。
短コンで45作中24位。


【15】
若島正
第6回解答選手権チャンピオン線(2009年3月)



いよいよ若島正が登場。
28角、66玉、39角とすると、48桂合ができずに詰んでしまう。そこで先に37桂合として角を近づけておこうという仕組みです。こうすると攻方は角を残したまま桂をタダで得ることができるので、55角以下の収束に結びつきます。
作者のブログに、この作品の裏事情が載っていますので、興味のある方はぜひ。→「ルービック・キューブ」を解く(その2)
高木手筋を絡めた構想部分から詰上りまで、まさに一点の無駄も緩みもない傑作だと断言したいです。

ところで高木手筋というのは、まだその定義さえまったく曖昧な状態だと思いますが、僕は最も広義の意味付けで捉えています。すなわち、王手ラインが2つ(以上)あり、後で中合をしたいのに「とある事情」によってできないので、1つめのラインで中合して大駒を近づけておく、というもの。
「とある事情」に「金先金歩」を代入したのが高木秀次作、「禁じられた遊び手筋」を代入したのが若島作、と解釈しておきます。


【16】
宮原航
詰パラ2013年7月



僕と同い年で、かつてはこのブログで詰将棋ウィークリーなる企画を共同運営していた作者。上の若島作をさらにアレンジしてきました。
初手から88馬、合駒、65馬、46玉に79馬で玉方は困ります。前に利く合駒では取って47に打たれるし、例によって68桂合は禁手。ちょっと工夫して77を香合にして79馬を取ってしまおうと目論んでも、そもそも香合の瞬間に同馬、同桂成、57香で詰んでしまいます。
そこで登場、高木手筋。2手目77桂成として、あらかじめ馬を近づけておきましょう。取らずに65馬、46玉、79馬には、68圭!で受けようというのです。
したがって77桂成は取るしかなく、以下2枚目の桂合を動かして、馬まで捨てての詰上りです。
今まで見てきた禁じられた遊び手筋の系譜を考えると、成桂合をしようという発想は過去作のうち【10】にしか見られず、きわめて稀な構想と言えるでしょう。


さて、以上16作を見てきました。
2000年以前の作品は、先行研究により網羅されていることを期待したいですが、2001年以降は僕が思いついた作品を紹介しただけなので、抜け落ちがあると思われます。もっと作品をご存じの方はぜひ情報をお寄せください。


参考
詰パラ2000年9月号、2001年2月号、5月号、8月号、11月号
『「八段目桂合禁止」利用作品の系譜』(その一~その五)阿部健治

禁じられた遊び手筋まとめ その2

その1の続きです。


【6】
森長宏明
近代将棋1986年5月



【4】【5】に続き、再び森長氏。
焦点合パターンが続いていましたが、今回は玉位置を動かすことによって禁じられた遊び手筋を使います。
初手18香は17桂合の捨合があり、同香では25玉で17桂が打てず、かと言って36龍、15玉、17香、24玉では持駒が桂桂で手がありません。そこで初手から28桂、17玉と動かして、18に桂合はできないので歩合を強要してから16桂と跳ね出して元に戻せばいいという仕組み。
収束まできっちり決めて、理想的な仕上がりと言えます。


【7】
上田吉一
詰パラ1992年10月



【2】の看寿賞作に引き続き登場の上田氏。今度は易しい構想です。
初手を入れておかないと77桂打合が効いてしまうため、成らせて88に合駒をさせるという魂胆。
43桂~12歩成として99銀を入手した後に、12歩~31桂成と逆モーションで初形に戻ったかのような構成がストーリー性を感じさせます。
構想部分が玉から離れているので、遠隔操作のような印象も受けますね。


【8】
森長宏明
詰パラ1992年12月



またまた森長氏。今度も新しい構造を取り入れてきました。
初手から53金、41玉、49飛では47桂合でうまくいきません。そこで初手にいったん59飛と様子を伺い、仕方なしの桂合をさせてから49飛と寄ることで、合駒位置が48になっています。
従来ならばここで歩合となって収束するのですが、48桂成~47桂で何が何でも桂しか渡さない強情な受けがありました。以下、龍も捨てて、最短のまとめとなります。
なお、22香は12飛成以下の余詰防ぎですが、なぜ歩でないのかは謎です。


【9】
森田銀杏
詰パラ1995年9月(修正図)



森田手筋の創始者登場。禁じられた遊び手筋の上にさらにもう一つ構想を塗り固めた作品となります。
序はちょっと乱暴ですが、8手目の局面が問題。素直に31飛成以下進むと、分岐手順のように16歩合とされ打歩詰に誘導されてしまいます。(ここ16桂合は詰むことに注意)
そこで9手目から53歩成、同玉、64金とこちらに金を使い43の利きを外して打歩詰を回避しておくのがミソ。42玉に対し予定どおり31飛成と追うと……玉方は今度は16桂合! そう、打歩詰回避の64金が仇となって桂打のスペースを潰してしまっているのです。
ここまでこの記事をお読みの方ならもう鍵は見つけているはず。そう、13手目に54桂、同角の2手を入れておけば、19飛に対する合駒位置が18になって桂合ができない、という仕組み。以下、狙いどおり歩が打てて詰み。
「桂合なら詰むが歩合で詰まない」→(攻方の工夫)→「歩合なら詰むが桂合で詰まない」→(攻方の工夫)→「桂合を禁手にして歩合強要」という、構想の流れが実にエレガントと言えます。


【10】
富沢岳史
詰パラ1998年11月



詰パラの検討者による、壮大な構想作。
2手目64玉は55角成以下79飛が回れるので詰んでしまいます。58歩合、同飛、同銀成は55角成以下だし、58歩合、同飛、64玉とよろけてどうだ、79飛が回れないだろうと主張しても、合駒が歩では75歩と打たれてぜんぜんダメ。58桂合が打てればいいのに……。
しかし2手目単純に45に逃げる手がありました。49飛と銀を取られてしまうのですが、46桂合とすると結局は銀を54に捨てるしかなく、同玉、59飛に58桂成!がハイライト。成桂なら8段目に行ってもいいだろうという発想で、同飛、64玉となって、玉方は歩を渡さず79飛を回らせずという目的を達成しました。以下は収束ですが角、桂、飛という合駒が出てきてかなり難解な仕上がりです。
45玉は単に逃げる手と言えばそのとおりなのですが、不利逃避のにおいがします。また攻方は単純に攻めているだけなのに、玉方だけが苦心して桂合をひねり出してくる構成も、今まで見てきた他作品とは一味違う作りですね。


今回はここまで。次回はどのような構想が登場するのか、乞うご期待。

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my cubeへようこそ。詰将棋のブログです。駒を並べてアートが表現できるって素敵なことじゃありませんか? 詰キストの方もビギナーの方も楽しんでいってください。

Author:鈴川優希
1997年生まれ。月刊誌「詰将棋パラダイス」に作品を発表している詰将棋作家です。詰将棋は小学生の頃から作り始め、2009年5月に詰パラ初入選。2015年12月に最年少同人入り(入選100回)。半期賞9回、看寿賞1回。2016年4月~2020年6月「ちえのわ雑文集」世話役を務めました。現在は入選200回を目指す傍ら、順位戦や短コンの解説をたまに担当しています。

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2015年(第n回)・2016年(第φ回)に当ブログで開催。使用駒数11枚以上、タイトル必須という条件で募集した作品を出題し、解答者に評価してもらうという企画です。結果発表はニコ生で行いました。作品の結果稿はブログ右袖のカテゴリーからご覧いただけます。なお、この裏短コンはほっとさんのブログ「詰将棋考察ノート」に受け継がれました。

今週の詰将棋・
詰将棋ウィークリー

今週の詰将棋は2009年7月からの2年間100題。詰将棋ウィークリーは1012年3月からの50週は幻想咲花さんとのコラボ、それ以降は鈴川単独の出題で2014年3月まで、#100をもって終了しました。解答していただいた方に感謝します。
※81puzzler閉鎖につき詰将棋ウィークリーの記事にはリンク切れが多いです。

解付き出題
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